兵糧米BLog

商業BL雑誌の感想中心、熱いものブチ込み系ブログ

『おれ、被害者』の本当の被害者は誰か?木村ヒデサト先生的大団円とは

「おれ、被害者」は木村ヒデサト先生の3作目の単行本。リブレ出版からは初。「エロとろ」など2013年からの短編を集めた一冊です。

おれ、被害者 (シトロンコミックス)

おれ、被害者 (シトロンコミックス)

 

まず、本書はBLに娯楽、甘イチャイチャを求める人には向かないかもな……、と申し上げておきます。まぁ表紙からしてそんなものを期待している人は手にとらないだろうけど……。ワハハ

 

ここでいきなりカバー裏の木村ヒデサト先生ご本人の言葉をお借りしますね。

「このコミックス偏り過ぎじゃねーか…?」

「この作者だよ?いつものことじゃん」

「どうせ心休まるBLなんて1本も入ってないんだから マイナス思考はいかんよ この作者だけは読者さんに楽しんでいただこうとウキウキ描いてるんだから」

「BLの中のUMA的なものだと思っていただければ おんのじだよねっ」

 

木村ヒデサト先生の漫画を読んだことがない方は「メリーバッドエンド」でググってムリそうだと思ったらUターンするのもアリかもしれません。

 

  この単行本は「被害者」をめぐる話が集められていると思うので、感想とともに「誰が本当の被害者なのか」考えていきます。

 

以下、各作品の感想。

 

 

「よろこびの先鋒」

信夫×優

・あらすじ

汚部屋住人で何事にもだらしない信夫の部屋を片付けにくる優。しかし部屋の掃除をしていると必ず信夫が襲ってきて――?

 

信夫に毎回首絞めエッチされるうちに窒息してないとイケなくなる優。これ信夫は窒息状態の優がみせる笑顔に惚れたってことなんですよね。優を部屋に来させる口実に信夫は部屋を片付けない、っていうのが萌えますな~!

この短編集のなかで一番パッピーエンドかつ糖度高め。セックスはアブノーマル気味だけどBL感あっていい!描きおろしのオマケページではお互い大好きじゃね~か!って見せつけてもらえます。

ここでの被害者は~いちおう、優かな。首絞められて部屋掃除させられてるしね。最終的にはハッピーだけど!

 

 

「鹿島くんの知らない日常」

鹿島×ユキタカ ほか  

・あらすじ
主人公である大学生・鹿島は男性からストーカーにあっているのでは…?と思わせるが、本当にオカシイのは世界ではなく鹿島のほうだと判明する。彼は精神分裂病で108の人格をもつと言う。(いつも同じユキタカという男とヤっている場面で、この物語のメイン人格・普通の鹿島くんが覚醒する。)


正直、重苦しい描写は一切なくコメディタッチなのが逆にとてつもなくホラー。これをハッピーエンドだと受け取るかどうかは、かなり読み手によって変わるんじゃないかな…。

よく二次創作のジャンルで「総受け」って概念があるけど、これは「鹿島くん総攻め(リバあり)」って感じ。鹿島くんは自分が何をやってるのかあんまり自覚できてないけどセックス大好きで頭がふわとろ…という。老若男女美醜も関係なくヤりまくり。憧れのあの子とも実はセフレ。鹿島くんとユキタカが幸せならいいんだろうけど…う~ん。色々と考えてしまいます。

 

ここでの被害者は、一見、ユキタカかな…暴力振るわれてるし。でもそれはプレイの一環だから本当の被害者はノーマル時の鹿島くんが一番の被害者かもな。

 

セックス中にノーマル鹿島くんが覚醒する場面は本当にツラい気持ちになりました。

今日は何月何日ですか

俺はちゃんと大学に行ってますか

ここはどこですか

 

と鹿島くんがユキタカを探し絶叫するシーン……。心臓を鷲掴みにされます。

この話はメリーバットエンドと言ってもいいと思う。

 


「昨日の話と今日の話」

ミドリ×先輩(名前出ず)

・あらすじ

24歳のミドリは36歳の先輩が好き。プレゼンで自分の班が1位になった記念に先輩の家にお呼ばれして…!

 

16ページなのでサクッと読めました。ノンケだと思ってた先輩が実はバリネコで後輩ミドリは食われてしまう。これも被害関係が逆転するのが面白い。迫られてたはずの先輩が最終的に土下座してるんだから。

ミドリがいちおう被害者かな?なんだかんだ明日の話ができるようになれるんだからパピエン!

 


「未確認の証明」

相良(そら)、利久(りく)、多嘉良先生(たから)

・あらすじ

利久は小学2年生のころからUMA(未確認動物)をみるようになった。昔は信じていてくれた同級生で仲の良い相良でさえも中学に入ってからは懐疑的。保健室の多嘉良先生だけは利久の話をきちんと聞いてくれるけど……。


これ、性犯罪にトラウマがある人は本当に注意してほしい。
人の心に刻まれる作品って、やはりギュッっと苦しくなるようなものが多いと思うんだけど、これはまさにそれ。


「体質か、運か 初めて見たのは小二の頃だった。」


この最後に書かれた一行で気分が……。表紙が可愛い系UMAだったから油断したんだけど、これそもそも掲載誌「変BL」なんですよ。マガビーの特別付録小冊子の。私は単行本になる前に「変BL」で読んでて、そこで十分にダメージくらっていたんですけど、やっぱりこの作品はツライ。

ここでの被害者はダントツで利久。彼は心の自己防衛のためにレイプされたことをUMAのせいだとすり替えることにした、と明らかになったときは吐くかと…。正直、一番人を選ぶ作品だと思います。私は好きですが…。

 


「おれ、被害者」(表題作)

若者×センセイ

・あらすじ

世の中に絶望し、そこらへんにいたチャラくて顔のいい若者を殺してやろうと包丁をつきつける“センセイ”。しかし若者は命乞いをするでもなく「俺とかどうよ」と言ってきた。

 

これも『エロとろ』掲載時に読んでたんですが、まだ木村ヒデサト先生のことをよく知らない時期で「なんて後味の悪い話を描く人なんだ!」と衝撃をうけました。(雑誌掲載時からオチは多少変わっている気がします)

 

若者とセンセイの舌の出会いが本当に未知との遭遇…というか、おっかなびっくり舌が性格を表しているなと。若者はストックホルム症候群にかかっていると見せかけてセンセイのほうが肉欲に堕ちていってるの可哀想かわいい…。

 

被害者は若者、、、ではなくセンセイですね。監禁されちゃったし若者は首つりみせられちゃってるから若者は「おれ、被害者」って言うけど。

しかし、センセイは人を傷つけるためには一生捧にふる犯罪に走るしか選択肢がないっていう不器用バカだし、最終的には若者に見放されたと思って自殺未遂しちゃうし!センセイはきっと一生、被害者なんだろうな…。

 

あと自分の解釈が合っているか少し自信ないんですが、これ若者もセンセイの後を追って自殺未遂したけど助かって病室で再会…ですよね?ハッピーエンドか、な?

いや、これさては木村ヒデサト先生的大団円だな!??

 

 

1作品ごとのクオリティの高さや独自性のある設定がピリっときいていて短編の名手であることは間違いないと思います。

BLっていう定義で語っていいのかな、という作品も多かったです。クセがあるので人を選びますが、一度読んでみてハマったら抜け出せない世界観。

 

生きる糧になるような、いいBLをごちそうさまでした!