兵糧米BLog

商業BL雑誌の感想中心、熱いものブチ込み系ブログ

『女子BL』の各話感想―BLにおける名前のない彼女たちについて

世が世なら真っ先に焚書坑儒の憂き目にあっていたに違いない奇書、『女子BL』を紹介します。

このエントリーを読んでいる方は皆さん既にお手元に1冊ある人ばかりかもしれませんが、こんな傑作を読んで拙い文章をブチあげられずにはいられなかったので、まずは各話の感想から。

女子BL (シトロンアンソロジー)

女子BL (シトロンアンソロジー)

  • 作者: 秀良子,志村貴子,西田東,ふみふみこ,はらだ,市川けい,小鳩めばる,糸井のぞ,ためこう,プルちょめ
  • 出版社/メーカー: リブレ出版
  • 発売日: 2015/09/28
  • メディア: コミック
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最後にまとめとして女子BLの意義について書いてますので、各話の感想には興味ないという方は下まで一気にスクロールしていただければ。 

 

以下、積極的にネタバレしていくスタイルです。 

 

 

 

掲載順

・表紙/秀良子

はい、この表紙も本当にすばらCデスネー!ってカタコトになってしまいますね。表紙にバーンといる女の子の瞳にはA君B君がそれぞれ映っています。そして「Love between boys is STUPID!」の吹き出し。これBLメインのリブレ出版じゃないとなかなか書けないことですよね~。

帯には「わたしが 感じることが できない ときめきを見た。」この表紙のみに登場した男の子たちのBLはどこかで読めたりしないのでしょうか…。

 

 

・秀良子「少女C」

同じくシリカ編集部から刊行された「下衆BL」(げすびーえる)の続編。単品でも読めます。というか「下衆BL」を買ってちゃんと読んでいるのに、少し前の作品なので前回がどんな展開だったか忘れていた自分のような鳥頭でも面白かったです。

下衆BL (シトロンアンソロジー)

下衆BL (シトロンアンソロジー)

  • 作者: 秀良子,蛇龍どくろ,おげれつたなか,市川けい,はらだ,藤生,犬時(原作)笑平(漫画),プルガリア,つゆきゆるこ,久保田,コタケ,yoco,ためこう,ハナ
  • 出版社/メーカー: リブレ出版
  • 発売日: 2014/09/10
  • メディア: コミック
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 天真爛漫で優しいと専ら評判の小泉くんと隣席の不良・柏原くんの情事を覗き見てしまうモブC子。

まあ何がスゴイかって、モブ描写の容赦のなさですよ。モブを主人公にするという主客逆転を成り立たせるにはモブの構成要素をきちんと描かなきゃいけない。さえない・ださい・単純。モブを主人公にすることによって、よりメインのBLに焦点が当たって秀先生の描く男子って最高キュートだな!と再認識できる一品。

 

 

・糸井のぞ「ストックホルム」

もうタイトルからして嫌な予感ビンビンしてましたが、ストックホルム症候群…になってしまう女子高生の話です。監禁されている主人公・なつみはストーカーのストーカー、学校では人気の木多川先生にお世話されている。

木多川→ストーカー男→なつみ→(同情として)木多川

という関係式が泥沼。

そして最後に戻る居場所がない…と、また監禁部屋の生活に戻る…。メリバ…、なんでしょうか。なんとなく木原音瀬先生の小説を読んだ後みたいな良い意味での引っかかりがあります。

これは木原音瀬先生のコミカライズを担当されていたことが、自分のなかで勝手にリンクしてしまっているのもですが…。

期限切れの初恋 (ビーボーイノベルズ)

期限切れの初恋 (ビーボーイノベルズ)

 

 

 

 

・ふみふみこ「神の道徳論的証明」

普段BLを主戦場とされている諸兄姉方には、あまり馴染みがない作家さんかもしれません。しかし!「男の娘」と言ったらこの2010年代、右に出る者がいないといわれている……ふみふみこ先生!!!

「ぼくらのへんたい」は一般誌にも関わらず男の娘たちの苦悩が、あの可愛いタッチで読める最高の作品なんです!
ノータッチだったら、ぜひ試し読みしてみて!!  

ぼくらのへんたい(1) (RYU COMICS)

ぼくらのへんたい(1) (RYU COMICS)

 

早坂くんは品行方正なイケメン。
だけど女装っていう秘密の趣味を持っている。クラスメイトの田辺さんにバレてしまったけど、彼女は良い協力者。女装姿で童貞のおじさんとえっちしてしまい、葛藤する早坂くん。言葉にすると陳腐になってしまう(のは自分が主因です)けど、それだけじゃないんです。

もうさ、ふみふみこ先生は「悲しみ」を描くの上手すぎるッス…。「生まれながらの女」であることへの羨望のみならず、田辺さん側から「生まれながら持っているもの」への羨望も描かれていて、それがセクシャリティと交差して…悲しい。完成度の高さで言えば、このアンソロジーのなかで一番かもしれない。

 

 

・市川けい「ナチュラチュラリィ」

「気に入るものも苦手なものもだいたい一緒」な男女の双子の話。双子の兄・顕は妹・かなと少し異常なくらい距離が近い(物理的にも、精神的にも)。そして、年上の高校3年生男子・今池龍司に2人の前で「君のことが好きです」と告白される。

この今池という男がいけ好かない奴でねー!

普段、BLを読んでいるときは物語の受け手(ここでいう、顕)に感情移入して読むので、初見では混乱しました。
かなという女性キャラに感情移入を全くしていなかったため、何故この子は泣いているんだ……?あっ淡い失恋か!!って思考が結びつくのに時間がかかり、BL漫画の功罪をひしひしと感じました。女子BLという題材を一番真正面から昇華している気がします。

 

 

・西田 東「貪欲な花」

セールスマンの2人を教え子に重ねてみる50代くらい?の田中さん(女性)が主人公。浄水器の営業にきたセールスマン2人の、なんだかBLになりそうにない雰囲気。

自分はこういった青年誌にのっていそうな絵柄でBLを読むのが大好きなのでありがたかったです。彼らの関係性を一歩踏み出すきっかけを与える役割を自然と果たすことになる田中さんは、人生そのものが先生(=導き手)として優秀なのだなあ。

 

 

・ためこう「種田くんと付き合いたい」

種田くんは学校の憧れの的。そんな種田くんの横にはいつも冴えない有馬くん。モブ女子たちはいつも有馬を邪魔だと思っているけど、実は有馬くんを気に入っているのは種田くんのほうで…。

これすごくためこうワールドでてるなあと感じました。綺麗な男の子が抱えている歪んだ秘密…。ここからのエロがみたい!ためこう先生は別名義で出したコミックスが「東京都が選ぶ、この漫画がエロい!」*1に選ばれているので、もし出来るなら単行本にまとめたときにチラッと続編があると嬉しいのですが…!

縛られやイッくん (ペロペロ男子図鑑)

縛られやイッくん (ペロペロ男子図鑑)

 

 

 

 

・プルちょめ「おりぼんちゃんと男の子」

ミレイは男とセックスするのが好きないわゆるビッチ。あるとき陵太と翔太、2人の男の子に同時に告白され3人で付き合おう、ということになるが…。

なんというか、「女の子の存在」がこのアンソロ内で一番ヒールとして描かれているのかな、という感じ。悪く言いうと、いつものBL的文法に則った女の子像に近いのかな?でも女子を中心に据えて物語を展開させることは普通のBLではなかなか難しいので、やはり女子BLという括りがあるからこそ!

女子の存在を媒介として、実は男同士の絆のほうが深いんだよ~ってなる展開が好きなので、こういうお話もっといっぱい読みたいです。(素直)

 

 

・小鳩めばる「はいはい、かわいいね」

失恋して兄の経営するゲイバーで飲んでいた妹は「揺」という名前の綺麗な女装子に「ブスなのに手抜きするからでしょ」といわれて…。

この妹ちゃんはお兄ちゃんに恋してたのか~!女装モノで美人設定だと、どこで男要素を見せるのか難しいですよね。揺の最初にみたパーツが顔だったので男だとは思わなかったのですが次のコマで「もしかしなくても男のコだよね!?」って妹が言っていて驚きました。出来の悪い女装時代の格好が可愛い(女装感が出ていて)ので、そこらへんももうちょっと見たかったかな~と思います。

 

 

・志村貴子「玉井さん、恋と友情」

以前にこのブログ内で書いたこともある、志村先生の「起きて最初にすることは」というコミックスに出ている玉井さんが主人公です。

起きて最初にすることは (シトロンコミックス)

起きて最初にすることは (シトロンコミックス)

 

詳しくは ↓ 参照

女子BLの良いところは女を悪く描写する必要がないってところですよね。

玉井さんがしきりに言う「いいなと思ったら早めに行動するんです 熟しすぎちゃうとダメだったときの傷が深くなるから」という言葉、一歩踏み出すことも出来ない夏央にはビリビリきてるんだろうな~!

フラレたとこぼす玉井さんに「ごめん」って謝るのも傲慢でサイコーだな!?言外に「(君の好きな男は俺のことが好きで)ごめん」って透けてみえる。

夏央もキミも気づいてないだけで、それもう付き合ってるんだよ。玉井さんは友達にしかなれなかったから、逆に2人のことがよく分かるんだよ。

やっぱり志村先生は絵のタッチもシンプル可愛くて好きだ…。玉井さん番外編があったということは、続編に期待してもいいんでしょうか…!!「起きて最初にすることは」の2巻、待ってます。

 

 

・はらだ「わたしたちはバイプレーヤー」

ナイフで心臓を一突きされたような絶望感が読後に味わえます。

なぜこんなに絶望したかって、これが女性性への死刑宣告…のように感じられたからかも。これは言い過ぎかもしれないですが、それくらいのインパクトはありました。

「BLに女はいらない」ってこういうことだったのか!というアハ体験。

 

ページをめくる手が止められなくて早く次のページこい!こい!!と焦燥感にかられ震える手で読み終えると絶命……。こんなにスゴイ漫画を読んでしまっていいの?漫画って面白い…まさに漫画という表現方法を上手く逆手にとっている。
はらだ先生特有のエロスや、品のない下ネタ(褒め言葉)をサービスとしてきちんと盛り込んであるのに、こんなに読者を裏切る作品になっているなんて本当にズルイ。

 

このタイトルもすごくニクい。

バイプレイヤー(脇役)

脇役(わきやく)とは、映画・テレビドラマ・舞台演劇などに登場する役の中で、主役以外のもの、もしくはいくつかの重要な役以外のものの総称。

映画もドラマも演劇も主役一人で演じるものではなく、主役を引き立てる周りの脇役の存在があって初めて成立するものであり、上手く主役を引き立てつつ見る者の印象に残る脇役は特に「名脇役」と呼ばれる。また、多くのテレビドラマなどに出演し人気のある脇役メインの俳優を指す際に、「脇役」という表現を避け、「バイプレーヤー(byplayer)」(和製英語)と言う場合がある。

(Wikiより引用)

 

このメタ構造は野田彩子(新井煮干し子)先生の「わたしの宇宙」(非BL)を思い出させました。

わたしの宇宙 1 (IKKI COMIX)

わたしの宇宙 1 (IKKI COMIX)

 

 

とにかく、この1作を読んでほしい。BL観をガンガンに揺すぶられました。

この感想記事はもっと早くにあげる予定だったのですが、はらだ先生アンソロ騒動(詳しくはリンク先参照)があり、動向を見届けてからにしようと思っていたらこのタイミングになってしまいました。触手アンソロの博士と助手シリーズとかどうなっちゃうのかな~。

 

この度の不祥事に対する対策等のご報告(2015.10.16)-リブレ出版

http://www.libre-pub.co.jp/apology/

 

はらだ先生のリブレアンソロジー参加はこの「女子BL」が事実上、最後となってしまいましたが、そんなアレコレを差し引いても「わたしたちはバイプレーヤー」はBLを読む人、全員に読んでほしい傑作です。

初コミックス「変愛」で既にヤバイ新人さん出てきた…。という感じだったけど、この作品によって、はらだ先生は確実にBL界の怪物ルートに入ってしまった気がします。

 

 

まとめ 

この「女子BL」は既存のBLに対する挑戦状でしょう。

BLはとにかく女を亡き者にしてきました。女を描写する必要はないし、女がいないほうが「BL」に集中できる。これは今までのBLを支えてきた考え方の一つかもしれません。しかし、これからは真正面に女性を描写する作品が増えるのかもしれない。そんな萌芽があります。もちろん、脇役でいていい「解放」の面もあるが、同時に「抑圧」も自分は感じていたので、次世代のBLはもっと自由に「女」も表現に組み込めるのではないかな~と思います。

 

自分が傑作だと思うBLは女性が物語の担い手として主人公たちと対等である作品が多いので、本書によって「BL」の可能性がもっと拡がっていくと嬉しいです。

 

生きる糧になるような、いいBLをごちそうさまでした!

*1:「東京都青少年の健全な育成に関する条例(青少年健全育成条例)」による不健全図書のこと